- 独自基準の設定に踏み切ったのは、なぜですか
- やはり、一番大きかったのは“お客様からの声”ですね。現在、国が定めた食品の暫定規制値は、セシウム137が500ベクレル/1kgです。しかし、お客様からは「500ベクレル/1kgで本当に安全なの?」「農薬では独自の規制値を設けている らでぃっしゅぼーやが、なぜ放射性物質では設けないの?」といった問い合わせが、8月までに1万件ほど寄せられました。
しかし当社にとっても、放射性物質に関しては分からないことだらけ。そのため、独自に規制値を設定するまでには、いくつかの段階を踏む必要があったのです。国が食品の暫定規制値を発表したのが3月17日。まず私たちが一番に考えたのは、暫定規制値を超える食品を流通させないために「どう体制を整えるか」ということでした。そのため、まず第三者機関で放射線量を計測し、そのデータをきちんと公表することに力を注ぎました。8月を過ぎるころには、食品から検出される放射性物質の数値も落ち着いてきましたし、国も暫定規制値の見直しに向けて動き始めたこともあり、独自に規制値を設けても良い時期にきたのではないかと判断しました。いずれ食品の規制値は下がると思いますが、見直しされるまでには、まだ時間がかかります。当社としても、できるだけ早くお客様の不安を解消したい。だから、国の規制値が見直される前に、独自の規制値を設けることにしたのです。
- 独自基準50ベクレル/kgという数字に設定した根拠をお聞かせください
- これにはふたつの理由があります。まずひとつは、現在、国が設定している食品暫定規制値500ベクレル/kgに、“安全係数”の10分の1を掛けた数値が50ベクレル/kgということです。“安全係数”とは、1日の摂取許容量を設定する場合に、無毒性量に対して、より安全性を求めるために用いられる数字のことです。政府が設定している500ベクレル/kgも、安全性に基づいて定められているとは思いますが、さらに安全性を追求するために安全係数である10分の1を掛けるという考え方です。
ふたつめには、食品安全委員会が「生涯被ばく量100ミリシーベルト」という数字を発表しましたので、そこから1年あたりに摂取する野菜や米などの量を算出すると、だいたい50ベクレル/kgになるだろうという計算です。
- 現段階で50ベクレルを超えるものも、出てきていますか?
- 食品にもよるのですが、やはり“きのこ類”は高い数値が出やすいようです。この間も、原木の椎茸から67ベクレル/kg検出されて、出荷をストップしました。もちろん、国が定めた暫定規制値以下ですから、スーパーなどでは普通に流通しているレベルです。現在のところ、独自基準の50ベクレル/kgを超えて出荷停止になるものは、当社が取り扱っている品目の1%以下くらいですね。もちろん、50ベクレル/kgを上回った商品でも、農家さんから買い取っています。当社が独自に決めた基準ですから、農家に負担をかけることはできません。
- 御社の検査態勢について、詳しく教えていただけますか
- (1)まずは作付け前に、契約している農家さんの土壌検査を行います。現在、水田の規制値は5000ベクレル/kgと設定されていますが、畑に関する規制値はないので、当社では水田の規制値に準じて、5000ベクレル/kgを超える畑に関しては作付けをストップするか、収穫しないなどの判断を行っています。
(2)次は、畑からサンプルを採取し、信頼できる第三者機関に委託して、放射性物質の検査を行います。検査品目に関しては、当社で取り扱っている17都県700~1000品目についてすべて検査しています。ただし、検査をするためには、食品をすりつぶさねばなりません。すべての畑から一献体ずつサンプリング調査していると、時間がかかって出荷できなくなりますので、同じ作付けエリアで一献体という方法です。この段階で50ベクレル/kgを超えるものが見つかった場合は、流通センターには持ち込まず、流通をストップさせています。ちなみに、検査機関によっても異なりますが“検出限界値”は、5~9ベクレルです。また、当社でもベクレルモニターを用意し、並行して計測を行っています。
(3)最後に、入荷前の野菜は、すべてコンタミネーションモニターという簡易測定装置で全商品をスクリーニングします。これは、あくまでも表面の放射線値を確認するだけですが、万が一、高い数値を示すものがあれば、出荷を停止して再度、第三者機関で検査をしてもらいます。現在のところ、この段階で異常な数値が検出されたことはありません。
- 計測を第三者機関に委ねている理由は?
- もちろん自社でも計測は行っていますが、やはり自社の商品を自社で計測して、「安全です」と言われても、「本当に大丈夫なの?」と心配されるお客様もいらっしゃいます。それに私たちは計測のプロではないので、信頼できる第三者機関に依頼し、そのデータをすべて公表することがお客様の安心につながると考えています。加えて、事前に土壌の調査をしっかり行うことも、リスクを回避するうえでとても重要です。
- 今、被災地の農家の方々は、たいへんな思いをされていると思います。
身近に接しておられて、そのあたりはいかがですか?
- 農家の方々も「安心・安全なものを提供したい」という必死の思いで取り組んでいます。私たちは事故当初、農家の方々に「畑を計測させてください」と言ったら嫌がられるかなぁと危惧していたのですが、むしろ「どんどん測ってください、測ってもらうしかないんだ」という意見が大半でした。福島の一部地域では、残念ながら今後、農業を続けていくのが難しい地域もあります。そのような地域の農家さんには、北海道や九州などに移って農業を続けていただけるような取り組みを始めています。北海道や九州の自治体からも、「農地を無償で提供するから、ぜひこちらで農業を続けてほしい」という声をいただいてます。とはいっても、補償の問題が片付かない限りは、なかなか他県に移って……、というのも難しい状況なんですけどね。
- 私たちは、放射能汚染に直面したことをキッカケに、“食の安全”について、
もう一度きちんと向き合わねばならないと気づきました。
今後、消費者は、食に対してどんな姿勢でのぞめばいいと思いますか?
- 食品に関しては、放射能のことだけじゃなく、食品添加物や農薬、遺伝子組み換えといった問題があります。今回の放射能汚染の問題は非常に残念なことですが、これをキッカケに、食品の安全を見直すキッカケになれば……と願っています。「商品を買う」という行為は、ある意味“投票”することと同じだと思うんです。だから、意識して選択していただければと思いますね。
残念ながら今後は、放射能汚染があることを前提に、食品と向き合っていかねばならない世の中になりました。放射能リスクに対する考え方は人それぞれで、「絶対にゼロじゃないとダメ」という方もいれば、「私は50ベクレルくらいまでなら気にしない」という方までさまざまです。そんななかで私たち流通業者ができることは、徹底して情報を開示すること。そのうえで、みなさまがご自身の考えて基づいて選んでいただけるように取り組んでいくことです。ですから当社では、お客様が選択していただけるように、西日本の野菜だけを集めた「産地限定ぱれっと」や、東北の農家を応援する「北関東・東北応援セット」などをご用意し、ニーズにお応えできるようにしています。今後も、消費者のみなさんと共に、食の安全について向き合っていきたいと思います。