ポラン広場の宅配 インタビュー

日々、データ収集と研究に力を注ぎ、消費者に少しでも安全な食べ物を届けようと奮闘している「ポラン広場の宅配」さん。3.11後は、生産者と二人三脚で放射性物質の除去に力を注ぐとともに、不安を訴える消費者ひとりひとりに、電話やメールで返答してきたそうです。そんなポランさんに、食の安全を守る取り組みについてお聞きしました。

御社の放射性物質検査の流れを教えてください
私どもでは、すべて第三者機関に計測を依頼しています。そのほうが、より正確ですし、お客様にも信頼してもらえると思うので。検査対象地域については、東北・関東、甲信越、静岡です。今のところ北海道や西方面の野菜については検査の必要はないだろうと判断していますが、今後は状況を見ながら判断していきたいと考えています。

計測方法については、2種類あります。ひとつは、シンチレーション検出器による迅速検査です。当社では、この検査方法を「A」と呼んでいます。Aについては、短時間で検査できる代わりに検出限界値が20ベクレル/kgと高いのですが、核種がはっきりしないだけで20ベクレル以下が計測できないというわけではないんです。だから、これまで1度も放射性物質が検出されていないような品目や、安全性が担保できる遠隔地の野菜などに関しては、Aで迅速検査を行います。万が一、20ベクレル以下の数値が検出された場合は、それもすべて“参考値”として報告してもらい、消費者の皆さまにも公表するようにしています。もうひとつは、ゲルマニウム半導体検出器による精密検査です。この検査方法を「B」と呼んでいます。Bについては、検出限界値1ベクレル/kgまで正確に測定できるので、放射性物質が検出されやすい果樹や、福島・関東周辺のものはBで検査をしています。
放射性物質の検査は、全品調査ではなくサンプルを抜き出して検査しているのですか?
はい、そうです。お客様の中には、「なぜ全品検査しないの?」と心配の声を寄せてくださる方もいます。しかし、Aの迅速検査にしても、Bの精密検査にしても、製品をすりつぶさないと測定できないので、すべての作物を検査することは物理的に不可能なんです。作物の表面だけを、簡易測定器で「全商品検査する」ということもできますが、その数値はほとんどアテにならない。だから当社では行っていません。
その代わり、サンプル検査は、かなり緻密に実施しています。品目にもよりますが、同じエリアの生産物でも、作付け時期が数週間でも違ったら、その都度検査を行います。数キロしか離れていない隣町でも、畑によって汚染状況が違うことが分かってきましたから、きめ細やかな計測が大事だと考えています。
土壌検査については、どのように実施しているのでしょうか
検査機関に方法をお聞きしたら、「畑の四隅と真中から、それぞれ表面1cmくらいの土を200グラムずつ採取してください」と指示があったので、それに従って検査をしました。残念ながら、3.11以降大量にふった放射性物質は、北関東の畑にも降り積もっていました。「放射性物質が作物に移行しないように」と、研究会などにも参加して情報を集めたところ「セシウムは、その7割が土の 表層1~2cmに沈着し、5cm掘るとほとんどなくなる」ということが分かってきたんです。ポットで育てた苗を畑に植えると、根はセシウムをほとんど含まない地中に伸びる事になります。推定した通り、作物からはほとんど検出されませんでした。一番心配していた“米”についても、現時点では検出されていません。当社は、福島を含む東北と茨城の生産者と提携しているので、すべての農家に対して精密検査を行いました。現在、国は米の作付け基準を5000ベクレル/kgと定めていますが、ある研究機構の試験データによると、500ベクレル/kg以下の水田なら、ほとんど米に放射性物資が移行しないだろうということでした。当社が提携している農家の水田は100ベクレル/kg以下だったので、ほぼ大丈夫だろうと予測していますが、それを裏付けるために検査はすべて行っています。
では、思ったよりも食品の汚染は少なかったと考えて良いのでしょうか
当初考えていたよりは少なかったですね。当社の取扱品目で放射性物資が検出されたのは、5月に静岡のお茶から。9月に “ゆず”と“栗”から検出されたくらいです。汚染が少なかった一因は“有機農業”にあるのかもしれません。まだ研究段階ですが、「微生物が放射性物質を取り込んでくれる」という実験結果が出ています。当社と契約している農家は、農薬・化学肥料を使用しないため、土の中の微生物が死滅しないんです。はっきりしたことは言えませんが、こうしたことが関係しているのかもしれませんね。
今、被災地の農家の方々は、たいへんな思いをされていると思います。身近に接しておられて、そのあたりはいかがですか?
皆さん当初はショックを受けておられましたが、最近は「現状に負けず安全な食べ物を作っていこう」という強い気持ちにあふれています。
ひとつ印象に残っているエピソードがあります。放射性物質の検査をしたとき、栃木でブルーベリー栽培をしている農家のお母さんが、私にこんな話をしてくれました。「結果が“不検出”で本当にうれしい。でも私は、検査結果を待っている間、自分のことしか考えてなかった。自分の畑から(放射性物質が)出なきゃいいのにって、そればっかり……。ほかの被災者の方を思いやっている余裕がなくて、本当に恥ずかしい」と。謙虚ですよね。皆さん、互いに力を合わせて乗り切ろうとしていますよ。
良い話ですね。でも、私たち消費者は、そういった生産者さんの思いを知る機会がないので、不信ばかりが募っているように思います。
不安や不審感を払拭するには、データをすべて公開し、消費者自らが“選択”できるように流通の体制を整えることが急務です。まず、大手スーパーはいち早く検査態勢を整え、店頭で表示するようにしてほしいですね。個人的には、遺伝子組み換え表示のように、ベクレル数値の表示を義務づけるようにすべきだと思っています。現在のように、十分な検証も防護もせずに、「食べて応援」というのは違いますよね。
私たちは、放射能汚染に直面したことをキッカケに、“食の安全”について、もう一度きちんと向き合わねばならないと気づきました。今後、消費者は、食に対してどんな姿勢でのぞめばいいと思いますか?
3.11は、ものすごく大きな転換点です。まだ原発は収束していませんから、のんびりしたことは言っていられません。しかし、“食”は人間の営みを支える根幹ですから、せめてこの機会を「暮らし」や「命」を見直すキッカケにしていただきたいと思っています。
それと今後は、自らの判断で商品を取捨選択できるようになることが大事なのではないでしょうか。当社では、消費者の皆さんに指標をお示しできるよう、より分かりやすい情報公開を目指しています。たとえば、「このお茶は100ベクレル/kgです」と言われても、それが安全なのか危険なのか分かりませんよね。ですから、「1回につき使用する茶葉が約2グラムとした場合、1日3回×365日飲むと、○マイクロシーベルトの被ばく量になる」という被ばく数値までご説明するようにしています。加えて、放射線防護委員会(ICRP)が勧告している一般人の年間被ばく量は、「内部・外部被ばく合わせて1ミリシーベルト以内」であることも合わせて示します。そうすれば、より分かりやすいですよね。
これから厳しい環境が続きますが、消費者の皆さんには、有機農産物や伝統的な日本食が持っている力を、健康維持に役立てていただきたいと思っています。

(話し手:ポラン オーガニックフーズ デリバリ 常務取締役流通事業二部HD部長/佐藤昌紀さん)

※「ポラン広場の宅配」の放射性物質測定体制については、ホームページに詳細が載っています。https://www.e-pod.jp/nukecheck.html

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